第4回研究集会報告



総括

薄膜材料デバイス研究会の第4回研究集会が、「明日の電子デバイスを支える 薄膜新材料」というテーマの下に、2007 年11 月2、3 日の2 日間、京都市内の 龍谷大学大宮学舎清和館にて開催された。過去最高の184 名の参加者と60 件の 論文投稿を集め、チュートリアル、口頭発表、ポスター発表、ランプセッショ ン、業者展示と盛大に行われた。今年も産業技術総合研究所次世代半導体研究 センターの廣瀬全孝先生をはじめとする各界の著名な先生方を多数招待し、ア モルファス半導体の歴史から最先端技術に至るまで貴重な講演をいただき、大 変充実した内容となった。IV 族系半導体、酸化物半導体、有機物半導体、誘電 体、新材料など、日頃は顔を合わせることのない異分野の研究者・技術者が一 堂に会して自由に議論することで、新しい発見や技術の融合など、新鮮且つ質 の高い情報交換の場を提供できたと考えている。参加者のアンケート結果で は、”満足した”、”続けて欲しい”という声を多数いただいた。

参加者全員の投票によって決定されるアワードは今回から3名に増枠され、 龍谷大学の笠川知洋さん、国立台湾科技大学の葉文昌さん、九州大学の芦峰智 行さんに授与された。

本研究会の開催にあたり助成いただいた、財団法人 中部電力基礎技術研究所、 財団法人 関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団に深く感謝する。

アワード表彰の様子

チュートリアル

「明日の電子デバイスを支える材料」の代表として酸化物半導体・有機物半 導体について、基礎からその特長、応用について、初学者にも充分理解できる 内容で講演をいただいた。高知工科大学の古田先生には、酸化物TFT への応用 について酸化物半導体の材料優位性と実用化への課題について、また大阪府立 大学の内藤先生には、有機物半導体の光・電子物性について講演をいただいた。 最近の国内外の研究結果とともにご自身の研究結果も紹介していただき各50 分 の講演は、非常に充実した内容であった。講演終了後も活発な議論が交わされ、 両分野の感心の高さをうかがわせた。

オーラルセッション

セッションIa「有機材料・デバイス」では3 件の発表がなされた。まず、九 州大学の安達氏が「有機発光性薄膜デバイスの新展開」と題する招待講演を行 った。有機特有の自由度の高い材料設計によって、様々な発光波長の誘導放出 が可能であること、また、有機半導体材料であっても適切な電極と放熱設計に よって数MA/cm2 という極めて高い電流密度を達成できることなど、有機発光デ バイスやその究極の姿であるレーザーの可能性が具体的に見えるような内容で あった。セイコーエプソンの青木氏より、有機トランジスタにおける特性の 半導体膜厚依存性について発表があった。ゲート絶縁膜との界面だけでなく、 反対側の界面における界面準位が実際に閾電圧に大きく影響していることを定 量的に示した。千葉大学の松原氏より、有機多結晶薄膜における電界効果移 動度の結晶ドメインサイズ依存性と温度依存性について報告があった。独自の 四探針をもちいる移動度評価装置を用い、モデルとの比較からドメイン境界の バリア高さやホールの有効質量を議論した。

セッションIb「酸化物材料・デバイス」では3 件の発表がなされた。北陸先 端大学院大学の堀田氏は、FET 型強誘電体メモリの特性向上について発表した。 中間電極を用いた強誘電体メモリでは連続的な読み出しに問題があったところ を、読み出しパルスなどを工夫することにより解消し、読み出し耐性108 回以上、 150℃での保持時間が10 年以上得られることを示した。JST の平松氏は、ワイド ギャップp 型半導体であるLaCuOSe への正孔ドーピングと有機LED 用の電極応 用について発表した。従来よる1 桁高い1021 cm-3 の高濃度ドーピングを達成し、 有機LED 用の正孔輸送層であるNPB への正孔注入障壁が従来使われているITO よりも低く抑えることができることを示した。東北大学の川崎氏からは、招待 講演として「酸化物エレクトロニクス」について極めて広範な紹介がなされた。 酸化物超伝導材料に端を発する同氏の華々しい研究成果の数々について、精密 エピタキシャル技術や欠陥を徹底的に追い込んだ上で精密にドーピングする技 術、コンビナトリアル手法の重要性など、酸化物以外の研究者にとっても示唆 に富む講演であった。

セッションIIa およびIIb「W族系プロセス・デバイス」では、今年もたくさ んの興味深い発表があった。今回の特徴は、薄膜トランジスタばかりでなく、 MOSLSI に関する発表も多くあり、幅広い分野から投稿が集まったことである。 また、台湾からの投稿もあり、国際色豊かなセッションとなった。招待講演者 の九州大学の宮尾氏から、「シリコン系へテロ超構造技術の創出と未来型デバイ スの夢」というテーマで、企業時代から大学における研究のありかたについて の講演があった。同氏が、苦悩の中で、どのような思いで、研究の夢を貫いた かという他では聞けない印象的な講演であった。ハイテックシステムの佐野氏 からは、赤外線レーザを使った不純物アニール技術に関する発表があった。DLC 膜を光吸収層として用いて、連続波赤外線レーザによるイオン注入不純物の活 性化を検討した。B やP に対する活性化率がほぼ100%という高い効率を実証し た。九州大学の津村氏からは、Al 誘起層交換成長法による多結晶SiGe の低温形 成の提案がされた。Ge 濃度を変化させたさまざまなSiGe 膜を用いて、その結晶 化状態を観測したところ、全Ge 濃度において(111)に優先配向したSiGe 結晶 の成長を確認できた。国立台湾科技大の葉氏からは、Si 薄膜のエキシマレーザ 誘起横方向結晶成長過程の実時間観測法の提案があった。この手法を用いるこ とで、横方向成長速度は過冷却度に関わらず一定であることが確認できた。京 都大学の亀井氏からは、プラズマが最先端MOSLSI に及ぼすダメージについての 興味深い発表があった。ゲート絶縁膜だけでなく、接合破壊にも大きなダメー ジを誘起する可能性を示唆した。明治大学の林田氏からは、スパッタ法を用い たTiN ゲート金属を有するMOSFET の電気特性に関する発表があった。スパッタ 時の窒素流量の変化がトランジスタのしきい値やgmに与える影響を解析し、 最適条件を明らかにした。

セッションIIc「絶縁膜、回路」では3 件の発表がなされた。セイコーエプソ ンの田中氏は液体水素化ポリシランを前駆体として用いたSiO2 絶縁膜形成を報 告した。ポリシランの酸化反応を制御するために、ポリシラン塗布後、窒素中 と大気等酸素分圧下での多段階焼成を工夫して良質のSiO2 膜形成条件を見出し た。誘電率、界面準位密度、リーク電流特性から、同材料のTFT ゲート絶縁膜 としての適用可能性を示した。北陸先端大学院大学のHana 氏はシリコン膜の結 晶化を誘起するシード層として用いるYSZ 膜の最適形成条件を議論した。スパ ッタ成膜前のターゲットの酸化プロセスがYSZ 膜形成に重要であることを提示 した。そして、強い(111)配向を示すYSZ の形成のための最適ターゲット 酸化条件を示した。東京工芸大学の丹呉氏は、チャネル両側にLDD 構造をもつn 型TFT のホットキャリヤ発生について、シミュレーションを用いた議論を行な った。LDD-n-領域のドーピング濃度が低く、且つゲート及びドレイン電圧が大き いときには、両LDD 領域において同時に顕著な電位降下が発生し、ソース側に おいてもホットキャリヤ劣化が生じる可能性を報告した。

研究集会の様子1 研究集会の様子2

ポスターセッション

ポスターセッションは、口頭発表された論文を含めて56 件の発表を研究集会 初日の16:00-18:00 と2 日目の13:20-15:20 の2回に分けて行った。今回は、 ポスター発表直前に口頭発表者を除く方に、1 件あたり1.5 分、各回の全体の時 間として30 分程度のショートプレゼンテイションをお願いした。ほとんどの発 表者は、制限時間内に内容の要点を的確に述べられ、全体的に慌てた感じは無 く、比較的スムースに進行したと思える。各発表時間は短かったが、直後に行 うポスター発表への貴重な情報源としての機能は、十分に果たしたと感じられ た。ポスター発表自体は、清和館1、2 階の2 フロア全体を用いて行われ、 その十分な広さとショートプレゼンテイションでの簡単な内容把握もあってか、 各ポスター前では熱気にあふれた討論がなされ、セッション終了後も時間を忘 れたかのように議論が続いた。また、口頭発表で聞いた話をより広く、深く議 論できる場としても有効に働いたものと思われる。

ランプセッション

本研究集会では、バンケットと同時進行でいくつかのトピックス講演を聞く ランプセッションが一つの目玉となっている。昨年は、東海大学の菊池誠先生 に、「表面物理が生む『触発』〜歴史の中の教訓〜」の題目で、日本の半導体研 究の黎明期から始まる歴史について、研究がさまざまな局面を繰り返しながら 進展しくこと、”怪しい理解”を正面から攻め直すことの重要性など、これから を担う研究者にとって良き教訓となる内容を含んだご講演をしていただいた。 今年もこの流れを継承しつつ、本研究集会のテーマ「明日の電子デバイスを支 える薄膜新材料」に関連して、産総研 次世代半導体研究センター長の廣瀬全孝 先生にご講演していただいた。題目は「薄膜新材料とデバイス物理が切り開く サイエンス・イノベーション」で、1975 年に初めてのpn 制御が報告された当時 革新的な新材料であった水素化アモルファスシリコンから、現在のSi MOS プロ セスで研究が進められているhigh-K 材料に至るまで、新材料研究の楽しさ、興 奮、そして困難が伝わってくるお話であった。「新材料にかかわる研究グループ をいかに動かすか」から始まり知的財産権などに至る多くの質問に対して、そ れらへの回答だけでなく、昨今の大学の姿勢への憂い・期待や米国における大 学の研究・開発の事情を含め、詳しく丁寧にお答えいただいたことが印象に残る。

その後、投稿論文から特にトピックス性の高い3 件の講演をお願いした。龍 谷大学の笠川氏からは「Poly-Si TFT によるデバイスレベルノニューラルネット ワーク」と題し、低温ポリシリコンを新しい電子回路へ応用する先進的な研究 について報告があった。キャノンの雲見氏からは、「アモルファス酸化物半導 体:In-Ga-Zn-O TFT とその回路」と題し、新しい半導体材料であるアモルファス 酸化物半導体TFT の特徴をわかりやすく説明していただくとともに、現在まで に複数社で電子ペーパー、有機EL テレビの試作品発表がされていることなどの 報告がなされた。最後に、千葉大学の渡邉氏から、「フレキシブルデバイスに向 けた縦型有機トランジスタ」と題し、有機SIT トランジスタの現状と課題や有 機発光トランジスタへの応用などについての報告があった。質問時間が十分と はいえない状況ではあったが、興味深い講演と活発な質疑がなされたこと、深 夜までお付き合いいただいた講師の先生方と参加者の皆様に改めて御礼申し上 げる。

ランプセッションの様子1 ランプセッションの様子2

展示・広告

薄膜材料デバイス研究会の研究集会では、研究開発機関と関連企業とのコミ ュニケーションを図る目的で、これまでも、研究集会会場における企業展示・ アブストラクト集への広告掲載を行ってきた。

展示会場は、ポスター会場と併設しており、加えてコーヒーサービスもあっ て、多くの参加者が足を運んだ。ポスターセッションや昼休時間に、有意義な 活動ができたと聞いている。展示企業の方々には、実機の展示などもしていた だき、たいへん有意義な情報収集の場となったと思われる。また、展示コマー シャルとして、休憩時間に、展示内容の概要・企業の業務範囲などを紹介いた だいたが、休憩時間にもかかわらず、多数の参加者に耳を傾けていただき、好 評であった。広告としては、アブストラクト集の表紙・裏表紙などに、上質紙 による広告を掲載させていただいた。参加者180 名をはじめとする200 部以上 が流布し、また、手前味噌ではあるが、充実した内容のアブストラクト集は、 今後も数年〜十数年は、参加者のみなさまなどに参照されるであろうから、広 告効果は絶大だと期待する。

以下は、展示・広告いただいた企業のリストである。最後になるが、出展企 業のみなさま、足を運んでいただいた参加者のみなさまに、心より感謝を申し 上げたい。

展示

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